日常生活のケアからリスクマネジメントまで。介護技術の事例を紹介
2022-04-19 11:34:00
2022-04-20 16:52:36
更衣介助にあたっては、「必要な準備」「脱衣・着衣の手順」「注意点」などのポイントを押さえておく必要があります。不慣れな新人職員には、自信のないポイントもあることでしょう。
そこで本記事では、更衣介助の準備や手順、ポイント、注意点まで詳しく解説します。更衣介助マニュアルとしてお役立てください。
更衣介助とは、障害・病気などの影響により、介護サービスの利用者が自分自身で着替えられないときに、できない部分をサポートすることです。
利用者にとって衣類を着替えることは、おしゃれを楽しむこと以外にも多くのメリットがあります。
まず、睡眠時は寝間着、日中は普段着に着替えることは、気持ちをリフレッシュさせ生活にメリハリをつけるのに役立ちます。
また、清潔な衣類に着替えることは、皮膚の健康状態を良好に保つためにも有効です。寝汗などで汚れた衣類を着続けていることで、皮膚の状態が悪化し、褥瘡の原因となることがあるためです。
このように、適切な更衣介助は利用者のQOLを向上させます。
更衣介助は事前の準備が重要です。
着替えるのは「寒い」「恥ずかしい」と感じる原因になるため、これらに考慮しながら素早く介助を終える必要があるからです。
まずは、バスタオルを事前に準備しましょう。バスタオルを脱衣後の利用者にかけることで、体温低下の防止や恥ずかしさへの配慮に役立ちます。
これ以外にも、「衣類の準備」「室温への配慮」も事前の準備として必要です。これらについて解説します。
衣類の準備で、上着を選ぶ際のポイントは、以下となります。
・伸縮性の高い生地を選ぶ
・大きめのゆったりサイズを選ぶ
・通気性に優れた生地を選ぶ
逆に、利用者の体にぴったりフィットするようなタイトな衣類は、介助の際に肘・肩・頭を通しにくいです。そのような衣類に無理やり着替えることで、思わぬケガにつながることもあります。
次に、ズボンを選ぶ際のポイントは、以下となります。
・ゆとりのあるサイズを選ぶ
・伸縮性の高いズボンを選ぶ
ズボンも上着と同様にゆとりのあるサイズを選びます。ウエスト周りがきついと、腹部が締めつけられて、痛み・不快感の原因となるためです。
また、後ろにボタンなどがついているデザインは、臀部の圧迫につながり褥瘡の原因となることもあるので注意しましょう。
更衣介助する前に、室温を23~25℃前後に調整します。
利用者は着替えの際に肌が露出するため、寒さを感じやすいものです。とくに冬場は、体温低下につながる場合もありますので注意が必要です。
適切な更衣介助を利用者に提供するためには、手順を理解することも大切です。
そこで、介護職が難しいと感じやすい「麻痺がある方の場合」「寝たきりの方の場合」の2つの手順を紹介します。
まず、「麻痺がある方の場合」の更衣介助の手順についてです。
片麻痺がある方の場合は、介護職でよく使われる用語「脱健着患」を理解する必要があります。
「脱健着患(だっけんちゃっかん)」とは、衣類を着脱する際に左右どちらの手・足から行えば良いのかを示す用語です。「脱は脱衣」「健は健側」「着は着衣」「患は患側」の頭文字です。つまり、脱衣時は健側から、着衣時は患側からおこなうことを指しています。
以下より麻痺がある方の手順について、「着衣」「脱衣」に分けて紹介します。
■麻痺がある場合の着衣手順
1.麻痺側の腕から衣類を通す
「脱健着患」のとおり、動かしづらい麻痺・拘縮がある腕から衣類を通します。患側の腕を無理に引っ張ったり、曲げたり、伸ばしたりしないようにしましょう。無理に力を加えるとケガをするリスクがあります。
2.頭を衣類に通す
次に、頭を衣類に通します。
3.もう一方の腕を通す
そして、健側であるもう一方の腕を通しますが、衣類のサイズによっては腕が出にくい場合もあります。その際は、焦らずに健側に衣類を寄せてゆとりを作ってから腕を通しましょう。健側であっても無理に介助するとケガをすることがあるためです。
4.衣類を整える
衣類をしっかり下ろし、背中・腹部の部分を整えます。そして、腕周り・肩回り・袖回りを整えましょう。
5.利用者に確認する
最後に、利用者に違和感、痛み、つらい部分がないか確認します。
■麻痺がある場合の脱衣手順
1.脱ぎやすい状態にする
まずは、背中の衣類をまくりあげます。まくりあげることで、服が脱ぎやすい状態になります。
2.健側から脱ぐ
「脱健着患」に従って、動きやすい腕である健側から服を脱ぎます。
3.頭を脱ぐ
次に頭の順番で衣類を脱ぎます。
4.患側の腕を脱ぐ
そして、患側の腕を脱ぎます。着衣時と同様に無理な力がかからないように注意しましょう。
上衣について説明しましたが、ズボンも同様に「脱健着患」に従って介助をおこないます。
寝たきりの方の場合は、何度も体位交換するのを避けるために、脱衣をしながら着衣をします。上衣・ズボンに分けて解説します。
■上衣の更衣介助
上衣の更衣介助の際は、以下の手順となります。また、寝たきりの方であれば、着脱しやすい前開きの衣類を利用するのがおすすめです。
1.上着のボタンを外す
まずは、上着のボタンを外します。
2.先に、肩の部分を脱ぐ
ボタンを外し、先に肩の部分を脱ぎます。この手順によりスムーズに衣類が脱げるようになります。
3.体を横向きにする
利用者を横向きにします。
4.上の腕の衣類を脱ぐ
横向きになった状態で、上の腕の衣類を脱ぎます。そして、その状態で着替える衣類に袖を通します。
5.反対向きにする
片側の脱衣・着衣を終えたら、反対向きにします。そして残った袖を抜いて、着替える衣類に袖を通します。
6.仰臥位になり衣類を整える
最後に、仰臥位になり着替えた衣類を整えます。とくに背中部分のシワをしっかりと伸ばし、褥瘡予防に努めましょう。
■ズボンの更衣介助
1.体を横向きにする
はじめに体を横向きにしてズボンを下げます。片足ずつズボンをずらすようにしましょう。利用者がお尻を浮かせられる場合は、仰臥位のまま下すことも可能です。
2.仰臥位にしてズボンを脱ぐ
両足のズボンをお尻まで下ろし、利用者を仰臥位にしてからズボンを脱がせます。
3.着替えのズボンを通す
ズボンを脱いだら、その状態で着替えのズボンを足先から通し、両足とも太ももの位置まで上げます。
4.横向きにして片側ずつ上げる
利用者を横向きにして、上のズボンをお尻まで上げます。片側を終えたら反対向きにして、もう一方も上げます。
5.衣類を整える
お尻の部分のシワを伸ばし仰臥位にします。最後に衣類を整えてズボンの更衣介助が終了です。
ここからは、更衣介助の注意点について説明します。
利用者によっては、拘縮・麻痺、皮膚が弱いなどの注意すべき特徴があります。ケガや病気の悪化を防ぐためには、無理のない介助や観察が必要です。
以下より3つの注意点を解説します。
1つ目の注意点は、皮膚状態の観察項目をチェックすることです。
利用者が衣類を脱いだ状態は、皮膚状態をくまなくチェックできる機会です。以下の点について、観察を行いましょう。
・皮膚がカサカサしていないか
・内出血ができていないか
・皮膚がはがれていないか
・褥瘡ができていないか
・赤み・痛みがないか
これら皮膚状況に異変がある場合は、看護師に報告するなど多職種との連携が必要となります。適切な治療を早期に行うことで悪化を防げますので、異常と感じた場合は必ず上司・看護師に相談しましょう。
2つ目の注意点は、プライバシーに配慮することです。
とくに脱衣は、職員に肌を見られるため、恥ずかしいと感じやすい場面です。利用者の尊厳を守るためには、「同性が介助を行う」「適切なパーテーションを作る」などの対策が必要となります。
例えば、脱衣時にブランケット・バスタオルをかけることは、肌の露出が少なくなるため、恥ずかしさを軽減できる有効な方法です。
3つ目の注意点は、利用者ができることはやってもらうことです。
利用者のできることを、介護職が介助することは、利用者のできる能力を衰えさせる原因となります。利用者が既存能力を維持するために、できることは自分でやってもらうことが重要です。
更衣介助のポイントは、「必要な準備」「脱衣・着衣の手順」「注意点」を理解することです。
「更衣介助をスムーズに行いたい」
「新人職員への教え方に悩んでいる」
このような悩みを持っている方は、ぜひ本記事を更衣介助マニュアルとして活用してください。ポイントを押さえることで、自信を持って更衣介助ができるようになります。