介護職の負担を軽減する「ボディメカニクス」をわかりやすく解説

2022-04-25 17:51:15

介護職の中には、腰痛など身体面の不調で悩んでいる人もいるのではないでしょうか。

介護の仕事には、移動や移乗、立ち上がり、体位変換などの重労働も含まれるため、正しい体の動かし方ができないと、介護職の身体に大きな負担がかかってしまいます。

この記事では、介助者と利用者両方の身体にかかる負担を軽減できる原理、「ボディメカニクス」について紹介します。

 

 

ボディメカニクスとは

ボディメカニクスとは、「ボディ(身体)」と「メカニクス(機械学)」を掛け合わせた造語です。

人間の骨や筋肉、関節が作用する際の力学的関係を活用し、より少ない力で効率的に介助を行うための技術として、介護の現場で取り入れられています。

介護の現場でボディメカニクスを利用すると、介護職の疲労や身体面の負担を軽減できるだけではなく、利用者にとって心地よい介助ができるというメリットもあります。

 

 

ボディメカニクスの原理とは

ボディメカニクスには8つの基本的な原則があり、これらは「ボディメカニクスの原理」と言われています。

ボディメカニクスの原理を活用すると、力任せではないスムーズな介助ができるようになるので、介護職だけではなく、利用者にかかる身体面の負担を軽減することができるのです。

 

 

介護現場での活用シーン

介護現場では、利用者の移乗や移動、立ち上がりや体位変換などの場面でボディメカニクスの原理を活用できます。

利用者の移乗や移動は、腰を痛めやすい場面の一つです。そのような場面で適切にボディメカニクスの原則を活用できることは、長期にわたり介護業界で活躍するために必要不可欠なことです。

 

 

介護以外でも活用できる

ボディメカニクスは、介護以外の場面でも活用できる技術です。

例えば、介護職同様、身体への負担が大きい看護職にもボディメカニクスの利用は有効です。また、子どもを抱き抱えたりベッドに移動させたりと、肉体疲労を抱えがちな育児においても、ボディメカニクスの原理を活用することができます。

 

 

ボディメカニクスを活用するメリット

日常生活のあらゆる場面で応用できるボディメカニクス。ここからは、介護職がこの8つの原則を身につけておくことで得られる3つのメリットを紹介します。

 

介護職の負担軽減

介護職が身体を痛める要因の一つに、「無理な体勢での介助」があげられます。力が入りにくい体勢で利用者を移乗や移動させると、身体に大きな負担がかかってしまいます。

しかし、ボディメカニクスを活用すると、正しい体勢で効率よく自分の力を利用できるようになるため、身体にかかる負担を軽減することができます。

 

利用者の負担軽減

介助においては、介護職はもちろんのこと、利用者の身体にも負担がかかります。例えば、移乗介助時に身体が強く揺れたりするなどです。

ボディメカニクスを活用すると、介護職の身体が安定するので、揺れも少なくなり、利用者にかかる負担も少なくなります。

 

介護スキルに自信を持てる

介護スキルに自信をもつためにも、ボディメカニクスをしっかりと理解し、活用できるようにしておくことをおすすめします。

ボディメカニクスにより、移乗や移動、体位変換などの介助が楽にできるようになるので、介護にかかる不安やストレスが緩和されるからです。

自分の介護スキルに自信が持てず、不安を感じている介護職の方は、ボディメカニクスの動画を見るなどして、効果的に活用できるようにしておきましょう。

 

 

ボディメカニクスの8原則

ボディメカニクスには8つの原則があることをお伝えしました。ここからは、これらの原則を一つずつ紹介していきます。

 

支持基底面積を広くとる(足を開き腰を落とす)

支持基底面積とは、身体を支えるのに必要な床面積のことを意味します。

支持基底面積を広くとることで、身体のバランスが安定し、ふらつきも少なくなるため、利用者を楽に移乗することができます。

介助する際は、支持基底面積を広くとれるように足をしっかり開き、腰を落としましょう。

また、足を開く際は左右だけではなく前後にも開くと、より支持基底面積が広くなります。

 

低い重心を保つ

介助する際は、重心を低く保つようにしましょう。

身体の重心が高い状態で介助をすると、腰に強い負担がかかってしまい、腰痛を引き起こすリスクが高まります。腰痛予防のためにも、介助を行う時は常に重心を低く保つことを意識しましょう。

 

利用者と体をくっつけて重心を近づける

利用者と介助者の身体をくっつけることで、介助者はより力を出しやすくなります。

移乗の場面で利用者と身体が離れていると、力が入りにくく、バランスも安定しないうえに、腰への負担も大きくなります。さらに、揺れも大きくなるので利用者の身体にも強い負担がかかります。

利用者との身体をくっつけて重心を近づけることで、少ない力で介助できるようにしましょう。

 

利用者の体を小さくまとめる

利用者の身体を小さくまとめると、力が分散しないので介助者が身体を動かしやすくなります。

身体を小さくまとめる際は、膝を立てて腕を組むようにしましょう。また、利用者の手足を体の中心に寄せることで、ベッドとの接地面積が小さくなるので、より少ない力で介助することができます。

ベッド上から車椅子への移乗や体位変換の場面で活用してください。

 

大きい筋肉を活用する

腕などの小さい筋肉に頼って介助をすると、身体の一部分だけに負担が集中してしまいます。

腹筋や背筋など、なるべく身体の大きな筋肉や、身体全体を使って介助することを意識しましょう。

 

水平移動を行う

移乗の際は、利用者を水平移動させるようにしましょう。

利用者の身体を持ち上げる上下運動だと、腰に大きな負荷がかかります。しかし水平移動だと、上下運動がなく、重力の影響もないため、身体への負担は軽減されます。

腰を痛めずに利用者の移乗を行うためには、水平移動をすることが重要です。

 

押さずに手前に引く

介助中は「押す」ではなく「引く」を意識しましょう。

利用者の身体を押すと腰に大きな負担がかかってしまいます。この動作を繰り返していると、腰痛やぎっくり腰になるリスクが高まり、身体面に支障をきたす可能性があります。

また、利用者にとっても引く動作の方が身体への負担が少なく、楽に感じます。

介助者と利用者の両方にとって負担の少ない「引く」動作を徹底しましょう。

 

てこの原理の活用

てこの原理を活用すると、利用者の身体を簡単に動かすことができます。利用者の膝や肘を支点に力を入れることにより、最小限の力で利用者の身体を動かすことができるのです。

利用者の体位変換の場面や、ベッドから起こす際に活用してください。

 

 

ボディメカニクスを行う際の注意点

ボディメカニクスを行う際は、利用者への声かけを徹底しましょう。

声かけをせずに、いきなり介助すると利用者は驚いてしまいます。「これから〇〇をしますよ」など、丁寧に声かけすることで利用者は安心して介護職に身体を委ねられるでしょう。

 

 

まとめ

ここまで、ボディメカニクスの原理について、そのメリットなどを紹介しました。

ボディメカニクスを利用すると、正しい体勢で効率よく身体を動かせるようになるので、介護職と利用者双方の負担を軽減できます。また、介護職の腰痛予防にもなるので、身につけない手はないでしょう。

ただし、いきなりボディメカニクスを活用した介助をすると、利用者を驚かせてしまうことがあるので、声かけを丁寧に行い介助をしてくださいね。