看取りケアとは? 介護施設職員に求められること

2021-10-21 21:11:26

平成27年の厚生労働省の調べでは、特別養護老人ホームの56.4%で「看取り期に入った利用者に対し、個別に看取り計画を立てて看取りを行っている」という結果が出ています。

死を避けられない状態にある人に対して、苦痛を和らげ、自分らしく・本人の希望を尊重した支援を目的としたケアである「看取りケア」。今後ますます現場で向き合う機会が増えるのではないでしょうか。

今回は、ターミナルケアとの違いや、現場でどんなことが必要とされ、行われているのか、解説していきます。

 

看取りケアの基本的な考え方・必要性が高まる背景

 

看取りとは「『看取り』とは近い将来、死が避けられないとされた人に対し、身体的苦痛や精神的苦痛を緩和・軽減するとともに、人生の最期まで尊厳ある生活を支援すること」

 

看取りケアとは、精神的・肉体的な苦痛を取り除いたうえで、本人のQOL(クオリティ・オブ・ライフ=生活の質)や尊厳を保った状態で最期を迎えられるよう支援すること。

 

これまで高齢者の最期というと、医療施設で治療や延命措置をしながら最期を迎えるケースが圧倒的に多く、2000年の厚生労働省のデータでは医療機関で亡くなるケースは全体の81%と、非常に高い数字でした。

 

本人や家族の意思からは離れた延命処置の末に死を迎えるケースもあり、「スパゲティ症候群(治療や延命処置のため、体中に管などが取り付けられた状態)」という言葉も生まれています。

 

また必要性が高まっている背景としては日本における高齢化社会があります。厚生労働省の見通しでは2025年には65歳以上の人口の割合は30.3%、2055年には39.4%と非常に高い水準になる見通しです。

そうした背景から、介護施設においても、看取りケアの重要性が高まっており、厚生労働省は看取りに関するガイドラインを制定しています。

ターミナルケア・緩和ケアとの違いは?

 

よく似た言葉で「ターミナルケア・緩和ケア」などがありますが、違いは何なのでしょう。

 

ターミナルケア・緩和ケアとは主に医療現場で医療行為を中心としたケアのことで、『ターミナル=終末期』の医療のことを指します。精神的・肉体的な苦痛を和らげた状態での終末医療の考え方です。

「延命をしない」「QOLを保持する」という点では同じになりますが、医療行為に軸を置いた支援ということになります。

緩和ケアは、精神的・肉体的な苦痛を和らげる点では同じですが、終末期に限らず医療現場で治療行為を同時進行で進める考え方です。

一方で看取りケアは介護施設や自宅などで、最期を穏やかに迎えられるよう、できる限りのストレスや苦痛を取り除き、QOLを保った状態での介護を指します。死に着目するのではなく、残された時間をどう過ごすかの視点に重きを置いた介護ということです。

 

看取りの流れ

本人や家族へのアプローチ

もし根本的治療が望めない場合に、利用者がどのような最期を迎えたいか希望を聞く必要があります。現在の状況や延命治療などについて説明し、理解してもらいながら、本人や家族が判断できるようにサポートします。

説明するときに大切な視点は以下です。

・延命治療と自然死の違いを具体的に理解してもらい、メリットデメリットを伝える

・本人や家族に方針を決める主導権があることをしっかり伝え、主体的に考えてもらう

・今後予想される身体や病気の状態などを数値などを用いて正確に伝える

・人生の最期を迎えるにあたって、生活環境などの本人の希望を細かく聞きく

・家族親族とどのような関わり方をしたいか、本人意向を確認する

・本人の希望が「やはり延命治療をしたい」「医療機関に移りたい」などの希望を受け入れる準備がいつでもあることを伝える

 

本人や家族の本音が聞けるよう、聞くタイミングや場所、それ以前の関係性など、気配りも大切です。

また、看取りについて親族間で意見が分かれる場合もあります。あくまで本人と意思疎通ができる場合は本人の意思が優先となりますが、意思疎通が難しい場合は窓口となる親族をあらかじめ決めておくことも大切です。

 

体制準備

看取り期に入った利用者には様々な希望を聴き、細かな配慮が必要となります。

・行事や日課など他の利用者と積極的に接触する機会を設けるか、ゆっくりと静かに個室などで過ごすことを主にするか

・緊急時の医療対応の確認

・緊急時の連絡先や、どんな事柄が起きたときに連絡をするか

・ご家族の宿泊などが必要か

・家族の接触のペースや関わり方

特に家族に関しては積極的に関わったり宿泊などを希望する場合は、ベッド・布団の対応や食事など、本人だけでなく他利用者も含めて細かいところまで確認や配慮が必要です。

また家族に説明確認する意味でも、食事・排泄・関わり方・ベッドなどの環境・亡くなったあとの対応などの計画書を作り、家族・職員間で共有することも大切です。

 

こまめな健康状態の把握

一概には言えませんが、看取り期に入ると通常、水分や食事の摂取量は徐々に減っていきます。健康状態が悪いために摂取できないのではなく、体が必要としていないため摂取できないためです。

そのため、口腔状態や皮膚状態・排泄・睡眠時間などを細かく観察し共有することが大切となります。また利用者が快適に過ごせるよう、ベッドの状態などの物理的なケアから、声掛けなど適宜コミュニケーションを取ることも非常に重要です。

看取り期は、日々の血圧などから、歩き方、会話上での反応の変化などを記録し、必要となれば連携先の医師に意見を仰ぐなど、介護職員・看護職員が健康状態の共有が重要になります。

また「息が苦しそう」「食事量が少ないが衰弱してしまいそう」「のどからゴロゴロと異音がしていて心配」などの家族が医療行為を望むこともあります。しかし、本人が苦しいとは感じていない場合もあり、そういった説明をしっかり家族に伝えることが大切です。

・医療職への連絡

呼吸が止まった、強く苦しんでいるなど、通常時と違う変化を見せた場合は、看護職に連絡し適宜医療職へ対応を仰ぎましょう。また、〇〇の状態になったときは医師に連絡してほしいなどの希望を本人・家族などに聞き取りをしておきましょう。

・家族への連絡

「呼吸が荒くなっている」「呼吸が止まっている」「心停止している」など、危篤とされる状態の場合は家族への連絡が必要です。事前に「〇〇の状態になったら連絡」など連絡をするケースや、連絡先の優先順位を決めておくことが重要となります。

家族に危篤と連絡したあとに容態が変化するケースもありますが、事後連絡で看取りというのは、家族の後悔などを考えると、事前にしっかりと意思疎通をし、しっかり連絡体制を作っておくことが大切です。

お見送り

心停止や呼吸停止になった場合は医師や家族に連絡し、医師による死亡診断を行います。

家族に医師からの説明をした後、お別れに向け準備を行います。家族にはお別れの時間を十分に取っていただきましょう。

医師の死亡確認後、エンゼルケアを行います。エンゼルケアについても、お亡くなりになる前に服など家族の希望を聞いておきましょう。ご本人の最期に立ち会えなかった家族には、最期の状況や生活、思い出などを伝えることも大切です。

ご家族を失った動揺の中、家族は様々な事務的な手続きが必要となります。葬儀業者や退所手続き、残留物の扱いなど、必要な手続きは事前に整理し、家族にわかりやすいようにしておきましょう。

グリーフケア

グリーフケアとは「悲嘆のケア」と呼ばれ、喪失体験の最中にある人をサポートするケアになります。

グリーフケアは『このようにすれば良い』といった決まった正解があるわけではなく、残された方の状況や環境などによってアプローチは変わってきます。

大切な人をなくされた家族には、深い悲しみがストレスとなり様々な不調をもたらすことがあります。

日本グリーフケア教会によると、以下のような反応が出てくる方もいると言われています。

・心(精神)的な反応

長期にわたる、「思慕」の情を核に、感情の麻痺、怒り、恐怖に似た不安を感じる、孤独、寂しさ、やるせなさ、罪悪感、自責感、無力感などが症状として表れます。

 ・身体的な反応

睡眠障害、食欲障害、体力の低下、健康感の低下、疲労感、頭痛、肩こり、めまい、動悸、胃腸不調、便秘、下痢、血圧の上昇、白髪の急増を感じる、自律神経失調症、体重減少、免疫機能低下などの身体の違和感、疲労感や不調を覚える。

・日常生活や行動の変化

ぼんやりする、涙があふれてくる、多くの「なぜ」「どうしよう」の答えを求められ、死別をきっかけとした反応性の「うつ」により引きこもる、落ち着きがなく なる、より動き回って仕事をしようとする、故人の所有物、ゆかりのものは一時回避したい思いにとらわれますが、時が経つにつれ、いとおしむようになるなど

まずはグリーフによりその反応がどのくらいの期間出るのかなどの知識を持つことが大切です。その上で遺族の話に耳を傾けることもケアの一つになり得ると言えるでしょう。

「もっとこうしていれば」「もっと一緒にいてあげたかった」という後悔から、「もうこんな思いしたくない」などの怒りにも似た感情が湧いてくる場合もあります。ですがこのような感情は、「〇〇をしたら」「〇日経ったら」といった線引をして突然消えるものではなく、グラデーションを持って癒えていくものです。

喪失感を抱えている人になんと声をかけてよいかわからないと感じるのであれば、あなたがその方に気にかけていること、体調面などについて「眠れていますか?」「ちゃんと食事は取れていますか?」などの声掛けからはじめ、「何かあったらいつでも声をかけてくださいね」と、いつもで頼って良いというコミュニケーションを取るのもいいかもしれません。

看取りケアに限らず、入所者にとって、残された時間をいかに有意義なものにできるかの視点を持って日々のケアに携わることは重要です。リスクのみにとらわれず、入所者に寄り添い、残された時間が充実できるようにできることを模索してきたいものです。