介護職員同士のコミュニケーションを見直そう!~福島見容さん(株式会社みらいびと)インタビュー~

2021-09-11 16:48:33

転職や離職の原因になりやすい、職場の人間関係。気の合う仲間と意思疎通がしやすい環境で働きたいとは誰もが願っているはずですが、なかなかうまくいかない現実に悩まされている人も多いでしょう。

そこで、人財育成コンサルティングを手掛け、介護事業者向けにも多くの人財育成・人財研修を実施してきた福島見容さんに、介護現場でのコミュニケーションはどうあるべきか、どのような点を見直すべきかについて聞いてみました。

【プロフィール】
株式会社みらいびと 取締役
福島見容さん

凸版印刷株式会社からITコンサルティング会社、教育研修会社を経て、2009年に「株式会社みらいびと」を設立。国内外の大手企業の人財育成コンサルティングに従事し、年間120日以上登壇を創業以来継続中。

夫が介護業界に転職したことをきっかけに介護福祉の世界に興味を持ち、ヘルパー資格を取得。介護分野の人財育成に携わってきた。

共通の理念を持った介護職員同士のコミュニケーション

当キャリアスマイルが行ったアンケートでは「職場の人間関係」が転職理由として上位に挙がっていて、たくさんの人が人間関係に悩んでいることがわかりました。

良い人間関係を保つ上で、職員同士どのようなコミュニケーションがとれる状態が理想的だと考えられますか?

福島さん:介護業界に関わらず職場の人間関係の素地として、みんなで職場の理想を共有し、実践できていることが重要だと思います。

特に医療や介護の業界を志す人には、「高齢者の役に立ちたい」「社会貢献したい」という意識を持っている方が多いので、それぞれの大義がぶつかりやすい。でも、ぶつかってもそこから話し合えればいいんです。

その際に、例えば「ご利用者様に寄り添う」といった、職場の法人理念や事業計画などにみんなが賛同し、目指す方向性や理想像を大枠でよいので共有できている状態が望ましいです。

そうすれば、多少やり方や思いに違いがあっても、そこを軸に話し合い、原点に戻ることができます。逆にそういう原点がないと、単なる感情のぶつかり合いや「やり方が合わない」というレベルの話で終わってしまいがちです。

また、医療や介護のようなシフト制の職場では、チームの仕事だと意識して進められるかどうかも重要です。

勤務する時間が早番と遅番で分かれていて顔を合わせることが少なくても、同じチームの一員です。施設の理念が実現できているかを常に意識し、「私の仕事」ではなく「みんなの仕事だから」と思えるかどうか。

バタバタしていて手が足りなければフォローしあい、ちょっとしたミスを引き継ぎで情報共有することで防いでいく。事故やインシデントが起こった時に、「あの人が起こした」と責めるのではなく、事故が起こった時にサポートし合える、みんなが自分ごととして捉えることができる。そんな人間関係が業務の遂行には欠かせないと思います。


―そういった状態が構築できずにコミュニケーションがうまくとれていない職場では、どのような弊害が起こるでしょう。

福島さん:まず、意思疎通にズレが生じたり、申し送りやホウレンソウ(報告・連絡・相談)がしっかりと行われなかったりすると、トラブルが起こりやすくなります。

例えば「Aさんがこんな風に不穏でした。なのでこういう処置をしました」という事実ベースの申し送りを受けての夜勤かどうかで、Aさんに対する夜間の対応も変わってきますよね。コミュニケーションの不足は事故やインシデントの元になります。

また、トラブルが起こった時に個人を責めてしまうと、人間関係の悪化につながるだけでなく、ミスを隠蔽するようになってしまい、ますます大きなトラブルに発展してしまう可能性があります。

声がけやサポートし合える人間関係がないギスギスした職場では、辞めてしまう人が増え、人手が足りなくなって現場はさらに忙しくなり、ますますコミュニケーションが希薄になる……という負のサイクルに陥ってしまいます。

苦手な同僚や上司とうまくコミュニケーションをとるには

―職場全体でみると大きな問題がなかったとしても、特定の人にどうしても苦手意識を感じてしまうという場合もあると思います。そういった人とうまくコミュニケーションをとれる方法はありますか?

福島さん:まず、「自分と他人は違う」ということを心の底からわかることですね。人間関係は、自分と人が違うからストレスなんです。

でも残念ながら、他人は変えられない。人は「自分しか変えることができない」ということを理解すべきです。苦手な人の発言を「あの人、なんでこんなこと言うんだろう?」と思い悩むよりも、自分しか変えることができないなら、自分が源になるしかない。

どう言えば角が立たないか。どう言ったら相手が自分の話を聞いてくれるか。自分の思いを遂げるために、相手にわかっていただく必要があるなら、そのためにどう伝えるのがいいのかを考えればいいんです。また相手の意見の真意を汲み取ろうとするこちら側の姿勢も同時に大切だと思います。

例えば、利用者のBさんが大事にしている人形の洋服を洗ってあげたくて上司に相談したものの、ダメだと言われたとします。

もちろん上司は、その職場でやるべきことではないといった理由があってNGだと判断したはずです。しかしどうしてもあなたがやりたかったら「なぜダメなんですか?」と聞いてみればいいんです。

「ルールとしてダメなのはわかっています」「介護士の仕事でないことは理解しています」と前置きしたうえで、「Bさんにとって大切なものなので綺麗にしてあげたいです。業務終了後に少し残って洗ってあげてもいいですか?」と言えば、きっと上司もダメだとは言わないはずです。

―とはいえ、例えば相手の言うことに納得できず、何か要求したいことがあったとして、相手と意見が合わず堂々巡りといったことも多いと思います。うまく伝える方法はあるでしょうか。

福島さん:まず、共通のゴールから示してあげるといいと思いますよ。仕事上で意見が合わない場合も、そのほとんどで実は「大枠OK・各論反対」なんです。

例えば、「利用者さんのためになることがしたい」という意見に対して「そんなことしたくない」という介護士はいません。目指すものは一緒で、その方法が違うだけ。必ず握手できるポイントはあるんです。

この仕事を志した原点みたいな、利害がぶつかる以前の大前提までさかのぼって、握手できるポイントから話し合いを始めるとうまくいきやすいと思います。

福島さん:弊社ではケアする人のケアを大切に考え、そうした人財を「ケアラーズメンター」と位置づけ、独自のカリキュラムを使って人財育成に取り組んでいます。その中で「アサーション」という方法も研修では教えています。

アサーティブとは、直訳すると「発展的・協調的自己主張」を意味する、相互尊重のコミュニケーションスタイルのこと。

アサーティブになることで、相手を否定することなく言いにくいことをきちんと伝える、きちんと頼める、相手に押し切られることなくきちんと受け止められる、お互いに尊重しあう強くしなやかなコミュニケーションを身につけられる。そのためのマインドやスキルについて教える、当社でも人気の研修プログラムです。

人は人、私は私。共感はできなくても理解はできますよね? 理解が難しくても、一旦受け止めてみませんか? というアプローチを提案しています。

転職で環境を変えるのも前向きな選択肢

-職場の人間関係に我慢できなくなって転職する方が実際多くいるわけですが、これはできるだけ避けて、これまで教えていただいたような方法や考え方を踏まえて、改善の努力をすべきだと考えますか?

福島さん:「パワハラ、セクハラ等であればすぐに逃げていいと思いますし、職場を辞める自由は誰しもにあります。ただ、責任放棄は良くないので、権利と責任はセットであるという前提で、ですが。環境を変えて、自分も変わろうと努力をするならば、転職も良い選択肢だと思います。

コミュニケーションに正解はありません。10人いれば10通りあります。

「変わる努力」とは、自分の性格を変えなければいけないという話ではなく、物事の捉え方を変える、伝え方の表現を変える、ということ。あなたはあなたであっていいんです。とつとつと喋っていても中身のある人もいるし、言葉少ないけれども説得力のある人もいる。ぜひ自分らしさのあるコミュニケーションを磨いてください。

ただ、「らしさ」の部分と、スキルや準備が不十分、というのは別の話です。「らしさ」は持ちつつ、伝え方や言う順番などを工夫してコミュニケーションスキルを磨いてほしいですね。スキルはいくらでも磨けますから!

―今回は、一人の介護職員として意識すべきことを中心に聞いてきましたが、管理者側としてできることは何かについても最後に聞かせてくれますか。

福島さん:まずは、法人理念に沿った活動ができているかどうか、現状を把握することは大事だと思います。

理念が実践されていない部分があれば改善していくこと。そして、職員間で同じゴールが目指せているかを確認しながら、そこで働く意義、何のためにしているかなどの動機付けや声かけも大事でしょう。採用基準や事業計画とのリンクも重要な要素だと思います。

介護職員間のコミュニケーションを活性化させるには、思いを共有したり、意見交換したりができるような時間を意識的に設定することも必要です。

例えば私が関わっている施設では、利用者さんが亡くなった時に落ち込んでいるスタッフの「もうちょっとああしてあげればよかった」といった思いを吐露できる機会を設けています。マイナスの感情をお互いに受け止め、語り合い、共有できる時間を持つのも有効な手法の一つだと思います。

また、各人財をサポートできるメンバーの育成も大切です。

若いうちはやっていいことと悪いことの線引きができていない人もいるので、「緊急度・重要度の高くないものは空いた時間にやりましょう」「緊急じゃないけれど、多少重要だとあなたが思うのであれば、できる時間を確保しましょう」など、整理してあげるといいと思います。

コミュニケーションが下手なのではなくて、ただやり方を知らないだけ。管理者側にはぜひ、アサーションをはじめとしたコミュニケーションの方法やスキルを学んでいただき、介護職員同士のコミュニケーションや人財育成に役立ててほしいと思います。

ケアする人をケアする研修「ケアラーズメンター養成講座」も行っていますので、ご興味のある方はぜひ当社までお問い合わせください。

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職員同士だけでなく、利用者さんやそのご家族とも人間関係が絡み合う介護業界では、「職場の人間関係」は離職や転職の大きな要因になっています。

人間関係を良くするコミュニケーションスキルを身につける努力も大切ですが、新しい環境で心機一転したい、自分を変えたい!と思ったら、キャリアスマイルにご相談ください。介護・看護業界専門のコーディネーターが、あなたの転職を丁寧にサポートします。

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